命令されるなら、自分で動きたい
機械を巡るひとびと VOL. 006

ユウキさん
秩父建設

秩父鉄道の保線を担うマルタイオペレーター。
何ができるかを問い続ける哲学者

2022年春 | 秩父にてインタビュー

関東屈指のパワースポット、三峰神社。
埼玉秩父地方の駅「三峰口」は、狼を神のお使いとする三峰神社の最寄り駅です。
その三峰口から熊谷までを経由し、羽生までつなぐ秩父鉄道。
2021年、保線作業用に新型マルタイ08-1Xが導入されました。
 

初春とはいえ、夜になると0度近くに冷え込むある日。
影森駅付近で新型マルタイでの作業の傍ら、ユウキさんに話を伺いました。
新型マルタイに、若いユウキさん。新たな動きが始まりそうな予感です。

 

「僕たちに求められることの中には無茶なこともあります。マルタイだから何でも解決できるだろうと思われているんでしょうね。」そう苦笑いするのは秩父建設のユウキさん。
ユウキさんは入社からずっと保線作業に携わり、7年前からマルタイを操るようになったという。

 

――実際には要求通りに実現できることにも限界がありますよね。マルタイも全てを解決できるわけではないので。

ユウキさん(以下、ユウキ):ですね、軌道狂いが生じている場合、バラスト下の地盤に問題が生じていることもあります。また架線高さも考慮する必要があります。支障箇所もありますし。該当区間自体は問題なかったとしても、その前後に連続する区間との折り合いもつけていかなくてはなりません。
 

――そうですね。となるとマルタイで「できること」と「できないこと」を整理して鉄道会社と作業前の調整をされているんですね。
要望の多さはマルタイ作業に対する高い期待の表れなのでしょうか?

ユウキ:そうですね。マルタイ作業する僕らに向けられる期待だと思っています。
自分たちも作業前の状態より良くできると自負を持っていますし、仕上がりが良くなければ反省し、どうすればもっと良かったかを考えます。

 

――チーム内でもよく議論するんですか?

ユウキ:ある課題を解決するアプローチは1つとは限りません。人によって「良い線路」の解釈や見解もさまざま。皆で議論する時間が大切です。ときには枠に捉われない自由な発想で解決法を模索したいと思っています。
 

――ユウキさんはどちらかというとチームの中で積極的に動いていくタイプだと感じました。日々の仕事の中で心がけていることはありますか?                              

ユウキ:自分は命令されるのが苦手です。言われたことに、ただ従って動くのは性に合いません。それなら自分から動いていきたいと思っています。どうせなら自分が頼られる存在になりたいと思います。自分がいれば他の人が安心できるように。そうなりたいです。

 

――そうなんですね。マルタイ作業は思いもかけないことの連続だと思います。そんなときに何でも聞ける、頼りになるメンバーがいるのはありがたいですね。特に新しく加わったばかりの人にとっては貴重な存在になると思います。
 

ユウキ:はい、そうなりたいです。いまはチームメンバーが足りておらず、他からサポートに入ってもらっている状況です。普段マルタイチームに所属しない人と、夜間作業をしています。自然と「どうしたら各役割について分かりやすく伝えられるだろうか?」と考えるようになり、マルタイを知らない人でも分かる資料を作りました。夜間作業時の役割(フロント、リア、防音壁横、後作業)ごとに分けて解説しています。機能ごとに解説するよりも、役割ごとの方が初心者には分かりやすいと思います。その他、初心者がぶつかりやすい悩みも記載しました。

 

――それはいいですね。これまでは働く人がたくさんいたので、「見て技術を盗め!習うより慣れろ!」が成り立ちました。これからは「いかに仕事の本質を身につけてもらうか?」だと思います。指導する側に工夫が求められる時代です。その意味でユウキさんのマニュアル作りは素晴らしいですね。
今日、作業を見ていて気づいたのですが、ユウキさんの所属するチームは雰囲気も良いですね。仕事の同僚というより、家族の関係に近い気もします。

ユウキ:そうかもしれません、何でも言いやすい良い仕事環境です。仕事中もそうですし、プライベートでも実は麻雀仲間です。今いるメンバーでできることを常に模索しています。
 

ユウキさんの愛用品 “安全ベストの時計”

こんなところに時計?
テープで安全ベストに時計を固定しているのはなぜ?
その理由はユウキさんの前腕にありました。

日に日にたくましく鍛えられた腕は筋肉質に。重いものを掴んで運ぶ際、前腕の筋肉が収縮し、時計ベルトをよく壊してしまうそうです。

それ以来、安全ベストに時計を取り付け、ベルトが壊れた場合でも、時刻を確認できるようにしているそうです。

――編集後記――

仕事の中で、自分の担う役割に対して真正面から向き合う。自分の強みと弱み、それを分かった上で前向きに進み続ける。「これまでこうだったから」の既成概念を取り除き、今より少しでも仕事の質を高めていこうとする姿が印象に残りました。決して声が大きいわけではなく、いつも冷静沈着に仕事を進める。これからはこんなタイプのリーダーが求められるのかもしれません。