撮り鉄の語る保線機械の魅力
機械を巡る人々 VOL. 004

フクロウさん

小さい頃からの鉄道ファン。撮り鉄歴10年以上、保線機械撮り鉄3年。
大学生としてアルバイトで稼いだお金を撮影に注ぎ込む。
情報の少ない謎の機械「保線機械」にメロメロ。
ロードバイクを主な移動手段に用い、狙った獲物は逃さない姿はまさに猛禽類。

クジャクさん

最近の悩みは徹夜で撮影した疲れがなかなか抜けないこと。
身体のことを考え、夜の撮影は休日前に。
「保線機械の美しさ」に魅了され、工場夜景の美しさにも通じると熱弁。 
保線機械が好き過ぎて、仕事にもしてしまったハマり人。

ユニコーンさん

保線機械のデータが世の中にはほとんど無いことから、保線機械の画像データベースサイトを創設。考えたことはすぐに実行するベンチャー精神の持ち主。
日本各地の保線機械に出会うため、持ち前のフットワークの軽さで飛び回る。

 

2021年夏|東京にてインタビュー

 

「ああ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの?」
シェイクスピア作のあまりに有名な悲劇「ロミオとジュリエット」。
ロミオとの間にそびえる障壁を嘆き、心のうちをジュリエットは叫びます。

恋愛工学では障壁があるほうが恋愛感情を燃えしやすく、恋愛を成就しやすいといわれるそうです。今回はさまざまな障壁を乗り越え、情熱を燃やす「保線作業車撮り鉄」のクジャクさん、フクロウさん、ユニコーンさん(仮名)に集まって頂きました。

 

今日はお越しいただきありがとうございます。
早速ですが一番気になっていることからお聞きしたいと思います。

――保線機械の魅力はどんなところですか?

フクロウさん(以下、フクロウ):私が保線機械に興味を持ったきっかけは、駅で“寝ていた”道床交換掘削車をたまたま目撃したことからです。

普段の生活の中では知ることのない保線機械。ネットで調べても情報はほとんど出てきません。謎の多いところが、知的好奇心を刺激しました。これは東鉄工業の所有するマルタイですが、一つずつ自分で調べてまとめてみました。

画像:東鉄工業 09-16 CSM / フクロウさん作
*撮影地と機械番号を機械下部に表示しています。

クジャクさん(以下、クジャク):フクロウさんは今回のインタビューのために資料も作って準備されていました。凄い情熱です。

私にとっての保線機械の魅力はなんといってもメカメカしいところです。見た目もカッコいいのですが、目的のためにデザインされたその機能美に憧れます。保線機械が暗闇で働く姿を見ると神々しさすら感じます。

 

写真:西武鉄道 Dr.Multi 総合検測車 / クジャクさん撮影

――そんな褒められると少し照れますね。私のことを言っているわけではないのですが。

機能美というと柳宗理の“用の美”を思い出しますが、マルタイをはじめとする保線作業車にそんな感想を持っていただけると嬉しいです。ユニコーンさんは保線機械のデータベースサイトを管理しています。サイトを作ったきっかけはどんなことだったのでしょうか?

ユニコーンさん(以下、ユニコーン):たまたま保線機械に関心を持ち、ネットでいろいろ調べてみたのですが詳細な情報を見つけることが出来ませんでした。そこで一人で少しずつ調べていきましたが、限界もあります。そんなとき全国に同じように保線機械に関心を持つ人と出会うことができました。各自が持つ貴重な画像のデータバンクを作りたいと思ったのがきっかけです。

 

――サイトには3000車両以上を掲載しているとのこと。過去の情報は少しずつ消えてしまいますが、ユニコーンさんのおかげで貴重な資料が守られることになりました。その行動力、素晴らしいです。

 

写真:京浜急行電鉄 マルタイ / ユニコーンさん撮影

ユニコーンさん

最初は作業場所が住宅街の中だったので撮影することができずがっかりしていましたが、手際良く作業が進み絶好の撮影ポイントに現れたところを夢中になって収めた1枚です。

ユニコーン:保線機械の魅力の一つに、人によっていろいろな楽しみ方が出来ることもあると思います。「夜」の働く彼らの姿はもちろんカッコいいんです。しかし「昼」は昼でいいんです。「昼」は旅行を楽しみながら保線作業車に出会えます。

旅の準備段階からワクワクします。まずはgoogle mapで該当する路線全体を確認し、お目当ての保線機械に出会えそうな側線のあるところを「お気に入り」登録します。この側線は基地っぽい。だからココでマルタイと出会えそうだ、とか。

列車に乗りながら少しずつ答え合わせをしていくのもいいですね。
「あっ、そっか、やっぱりココだったか!」とか。

私は自分で調べた情報から仮説を立て、その仮説を基に行動する派です。思いもかけない出会いがあり、苦労して車両と出会える喜びは格別です。

フクロウ:遠征する場合には、空振りするリスクを抑えるため、事前にどれだけ有益な情報を入手できるか?が鍵を握ります。各路線にはそれぞれエキスパートが存在しているので、その方から生きた情報を得ることもあります。

例えば「●●基地の基地手前にある照明が点灯していると、その晩、保守作業車がその基地から出発する可能性が高い」とか、「▲▲付近の作業は■■の位置から撮影しやすい」とか。地元でないと分からない貴重な情報を得られます。

 

――「昼」と「夜」で異なる楽しみ方ができるとは。奥深い世界です。撮影というと「夜」しか思い浮かべなかったのですが「昼」には「昼」の楽しみ方がある。勉強になります。「昼」の撮影を成功させる秘訣はどんなことがありますか?

クジャク:自然光の下で車両を撮影できるので、機械全体を綺麗に記録するには「昼」の撮影が最適です。ただ「昼」の場合、撮影自体が難しくなることもあるので注意しなくてはなりません。

外観だけで機械名称の判断が難しいのが、保線機械です。そのため正しく記録するために、機械の銘板をなるべく撮影しようと心がけています。「昼」の場合、機械が建屋の中にいることも多いため、銘板の撮影難易度が高くなります。撮影するには、適切なカメラレンズと撮影ポジション、そして撮影テクニックが必要になります。

 

写真:京浜急行電鉄 EM30 (既に引退済み)/ ユニコーンさん撮影

――クジャクさん、撮影困難な探傷車に出会うコツを教えて頂けると聞きました。
どうすれば探傷車に会えますか?

クジャク:探傷車は超音波でレールの傷を調べる車両です。時速30km以上で走行するため、保線機械の中では撮影するのが難しい車両と言われます。そのため、撮影を成功させるには通過する区間で待機しておくことが重要になります。

ただ探傷車がどの基地からスタートし、どの基地まで走行するかを前もって確認できないため、どのポイントで待機するか判断が難しいです。

そういうときは踏切などでレールが濡れているかを確認します。ただし安全に十分注意する必要があります。探傷車はレールの傷を調べるのに必ず散水しながら走行するので、レールの濡れを確認すれば探傷車がすでにそのポイントを通過したと確認できます。

それさえ分かれば事前に調べた情報から推測したルート上で、撮影に適切なスポットに先回りし、探傷車を待ちます。こうすることで小さく速度があり、撮影困難な探傷車を撮影できるチャンスが大きくなります。

 

クジャクさんの想い

レールの中の傷を調べる事が出来る、線路のお医者さん。この1両で営業線全てのレールを検査しているのを思うと大変苦労しているなと。彼らのお陰で我々が安心して電車に乗ることが出来ると実感します。

――クジャクさん、まるで野生動物を追うハンターのようです。
ただただその情熱に圧倒されます。危険なことには遭遇しないのでしょうか?

ユニコーン:危険なことというか、よく不審者に間違えられ職務質問を受けます。深夜、終電が終わった後に、線路沿いに待機している姿はいかにも怪しい。私も撮影していなかったら、そんな人には深夜あまり近づきたくないです(笑)。

職務質問は都会や人のいない地域ではあまりされたことがありません。都会と田舎のちょうど中間、地方の中心都市ぐらいに行ったときが今までで最も職務質問をされてきた気がします。

何度も職務質問をされると、警察への受け答えもスムーズにできるようになります。

 

――はい、、、。そうなんですね。普段生活している上ではあまり縁のない場面ですが、人生経験が豊かになりそうです。

あっという間に時間が過ぎてしまいました。
最後にお伝えしたいことがあればお願いします。

フクロウ:お願いがあります。保線機械は営業列車に比べて、手に入る情報が非常に少なく、ネットでも調べても分からない情報がたくさんあります。ぜひ日本プラッサーさんには保線機械に関する情報をもっと発信して頂き、保線機械のファンを増やしてください。

 

写真:ユニオン建設 KSP2002E / フクロウさん撮影

フクロウさんの想い

保線機械の撮影に始めていったときに撮影しました。愛用のロードバイクで夜の街を駆け抜け、会いにいきました。ところが途中から豪雨。大変だった思い出の写真です。

――ご意見ありがとうございます、今後もHP等を通じてPRしていきたいと思います。

気づいたらあっという間に2時間過ぎていました。まだまだお話を伺いたいのですが今回はそろそろ終わりにしたいと思います。皆さんありがとうございました。

 

 

――編集後記――

今回は「保線機械の魅力について」これまでと全く違う視点から、クローズアップしました。工場夜景にも通じる機械の機能美、「昼」と「夜」で異なる楽しみ方。これまで私たちが考えたこともないお話を伺うことができました。
3人の保線機械への愛を感じ、そして活動を楽しんでいる姿が羨ましく思いました。
ロミオとジュリエットの物語は今日も続いています。